四大悲劇「リア王」じゃなくて、ハッピーエンドでした。シェイクスピアも書き換えた?

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こんにちは、たなかあきらです。
シェイクスピアの四大悲劇の一つであるリア王。

しかし、17世紀にはネイハム・テイトが、シェイクスピアのオリジナル版をハッピーエンドに書き換え、18世紀~19世紀まで人々に受け入れられ上演されていました。

・このテイト版とシェイクスピアのオリジナル版の違いのポイントは?
・なぜテイトはオリジナルを改作し、人々に幅広く支持されたのでしょうか?

 

 ネイハム・テイトは商業的な受けを狙って、改作したのでしょうか?

 

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・シェイクスピアの「リア王」にはさらに悲劇の続きがあった 

 

ネイハム・テイトの改作とは? 

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テイト版の改作リア王は1681年に初上演して以来、特に18 世紀イギリスの名優ディヴィッド・ギャリックによって上演されて人気を博していました。

劇場経営者でもあったギャリックは興行的な成功を狙って、ハッピーエンドを求める観客の嗜好に迎合したのでは、と多くの学者たちに言われてきました。

 

テイト版の改作は本当に金目的だったのでしょうか?

確かに、商業的な成功を狙うことは否めないと思います。
しかし、それ以外にも幾つか理由があるようです。

まず、シェイクスピア版とテイト版との違いを比較しましたので、ご覧ください。

 

シェイクスピア版とテイト版の違い

主要な登場人物

(シェイクスピア版)

・リア王・・・年老いた傲慢なブリテン王。娘たちに裏切られ気が狂う
・コーディリア・・・リア王の末娘
・ゴネリル・・・リア王の長女。オールバニ公の妻でリアを裏切る
・リーガン・・・リア王の次女。コーンウォール公の妻でリアを裏切る

 

・グロスター伯・・・リア王の臣下。エドマンドの策略にはまり、エドガーを追放する
・エドマンド・・・グロスター伯の息子で野心家。ゴネリルとリーガンと不倫をし半兄エドガーに罪を擦り付け、ブリテンを乗っ取る。エドガーの異母弟。
・エドガー・・・グロスター伯の息子。エドマンドに陥れられるが、最後はエドマンドを破る

テイト版とシェイクスピア版の違い(概要)

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シェイクスピア版の概要と、テイトが改作をしたポイントを比べました。テイト版は赤字で記しています。 

愛娘コーディリアの追放の場面

・ブリタニアを治めるリア王が、3人の娘に国を譲ろうとして、父への愛を確かめようとします。

長女ゴネリルと次女リーガンは、わがままで傲慢な父リア王の機嫌を取り、言葉巧みに喜ばせますが、末娘のコーディリアは、素直であるが姉たちのように媚びることをしませんでした。

リア王は最も手塩に育てたのに愛がない!と、立腹してしまいます。そして、リア王はコーディリアを勘当してフランス王へ嫁がせ、国から追放してしまいました。

 

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⇒コーディリアはなぜそっけなくリア王に接したのでしょうか? なぜリア王は最愛の娘に簡単に激怒して国外追放したのでしょうか?(シェイクスピア版では不明)

テイト版では、コーディリアはリア王が認めていないエドガーと恋仲になっており、そのことでリア王との関係が悪くなっていたと考えられるのです。

 

リア王の没落の場面

・こうしてリア王は2人の娘ゴネリルとリーガンを頼るものの、次第に老害と疎まれるようになり、裏切られてしまいます。リア王は荒野をさまよい、娘たちに対する怒りと末娘への仕打ちの後悔から、狂気に取りつかれていくのでした。

 

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⇒シェイクスピア版は、リア王は傲慢で短気で横暴な性格が、リア王の破滅および悲劇を招く結果になっています。テイト版では、リア王も共感されるように、横暴ではあるが、老齢でよろよろと歩くか細そい内心は善良な人物を描き、邪悪さを軽減しています。

 

エドマンドの反逆の場面 

・リア王の家臣グロスター伯に、悪知恵が働き野心を持ったエドマンドという息子がいました。エドモンドは、ゴネリルとリーガンと不倫関係になり、父グロスター伯と兄エドガーを陥れて謀反の罪を擦りつけます。

そして、エドマンドはゴネリルの夫が亡くなると、ブリテン軍の指揮官を奪い取ってしまいました。

 

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⇒シェイクスピア版でもテイト版でもエドモンドが悪者になっています。テイト版では、エドモンドはゴネリルとリーガンだけでなく、末娘コーディリアにまで手を付けようとします。エドマンドは荒野でコーディリアを犯そうと、ごろつきを雇いコーディリアを襲います。

悲鳴を聞きつけたエドガーが駆けつけて、ごろつきを追い払い、エドガーとコーディリアは抱き合うのでした。

 

最後の結末

一方、フランスにいる末娘コーディリアはリア王の苦境を知り、リア王を助けるためにフランス軍を引き連れドーバーに上陸、父との再会を果たします。そして、エドモンド率いるブリテン軍との戦いとなります。

しかし、コーディリア率いるフランス軍は敗れ、リア王とコーディリアは捕虜となってしまいます。

リア王は助け出され、謀反の張本人エドムンドはエドガーに討たれましたが、コーディリアは獄中でエドモンドに既に殺されており、娘の遺体を抱いたリア王は悲しみに絶叫し、絶命したのでした。

 

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⇒リア王とコーディリアは捕虜となり投獄されていました。そこへ、刺客が登場してコーディリアを先に殺そうとしたときに、リア王が刺客を倒します。もう一人の刺客がリア王に向かってきたときに、エドガーが再び登場してリア王とコーディリアの命を救うのです。

この英雄的な行為によってエドガーは認められ、エドガーとコーディリアはめでたく結婚したのです。リア王は、グロスター伯らと一緒に引退して余生を過ごすことにし、コーディリアを女王とすることを宣言するのでした。

エドガーの締めの言葉

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物語の最後は、いずれもエドガーの言葉で締めくくられています。最後の一文の大きな違いが、印象的です。

 

シェイクスピアの悲劇版

この悲しい時代の重荷は 、残されたわれらが担ってゆくほかはない 。語らねばならぬことを語るのではなく、ただ、心に感ずることのみを語ろう 。

もっとも年老いた方こそ、もっとも強く苦しみを耐え抜かれた 。若いわれらに、これほどの苦しみにあいつつ、これほどに永く生きることは、できまい 

 

テイトのハッピーエンド版

首うなだれていたこの国が繁栄の花ひらき、コーディリアの輝かしい先例は世の人々にどんな運命の嵐が降りかかろうと、真実と美徳は最後には栄 えることを示すのだ 

 

テイト版の改作の狙い

テイト版に人気の理由

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善良な人々が、悲惨な死を迎えるシェイクスピア版の結末は 、特にコーディリアの死は当時の多くの人にとっては耐え難い内容でした。

人々が喜ぶために、テイトがシェイクスピア版の内容を、「改良した」とも言えます。このため、エドマンドや二人の姉たちは、シェイクスピア版よりも悪の程度が大きくなり、さらにコーディリアもリア王も助かるハッピーエンドに書き換えられたのです。

 

また、シェイクスピア版ではストーリーの一貫性(柱)が弱い内容で、テイトは改良が必要と考えたようです。

このため、コーディリアとエドガーの恋愛を軸に、不幸から這い上がり悪を倒して最後は主役が幸せになる、分かりやすい一貫したストーリーに改良したとも言えます。

時代のニーズに合ったテイトの「リア王」は、当時の人々には受け入れられて人気を博し、150年もの間演じ続けられたと考えられます。

 

シェイクスピアも歴史を書き換え

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テイトの時代(17世紀)では、シェイクスピアは優れた劇作家として知られてはいましたが、今のようには崇拝にまでは至っていませんでした。

また、シェイクスピア自身も原形から書き換えていたのです。実は歴史上の内容でもハッピーエンドなのです。悪のエドマンドは倒され、リア王が再び復活して王になり、その後コーディリアが女王として、ブリテンを治めたのです。

そのことを、テイトは知っていたのかもしれません。(エドガーとコーディリアの恋愛は歴史にはなく、テイトの創作のようです)

 

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・シェイクスピアの「リア王」にはさらに悲劇の続きがあった 

 

参考文献:
安田比呂志:ディヴィッド・ギャリックの演技術と新しいリア王像
小野昌:シェイクスピアの「リア王」のテイトによる改作について

 

 

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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