こんにちは。たなかあきらです。
中世ウェールズの歴史をもとに、ストーリーを書きました
このストーリーをもとに漫画にできたらなあ、と思います。
※時代背景
大王の決断
ロドリは静かに、しかし力強い言葉で、話し始めた。
同族ながら小国に分かれてお互い争いあっていたウェールズ。ようやく一つに纏まり平穏な日々を手に入れることができた。
しかし、決して気を緩めてはならない。いつアングロ・サクソンやヴァイキングが攻めてくるやも知れぬ。今こそウェールズは手を取り合い団結すべき時なのだ
息子たちはロドリの言葉に頷き、それを代表するかのように、アナラウドがすぐに口を開いた
偉大なおやじの言う通りだ。おやじが一つに纏めたウェールズが、再び分裂し乱世に戻らぬよう、俺たち兄弟はおやじを盛り立てていくよ
大王は満足したかのように、うなずきながらアナラウドの方を見た
うむ。しかし、ワシはもう年老いた。一人でウェールズを率い守っていくことは、もうできぬ。我が息子たちよ、ワシがまだ元気なうちに、お前たちにウェールズを継がせる。お互い協力してウェールズをより一層強く平和な国にしてくれ
9世紀のウェールズ。アングロサクソン七王国がウェールズを攻めたて、ヴァイキングもウェールズに襲いかかった。
プリンス・ロドリは瀕死のウェールズを救おうと立ち上がった。誠実で真面目は熱意は人々の信頼を得て、異例にもウェールズの人々を一つにまとめる事ができたのだった
これまでの長いウェールズの歴史を見ても、一つになる事はなく、常にバラバラになってお互い張り合っていのである
一つになったウェールズは強かった。士気が上がったロドリ率いるウェールズ軍は、アングロサクソンを後退させ、皆から恐れられたヴァイキングをも、撃破したのだ。ウェールズの人々は皆、敬意と親しみを込め、ロドリ大王と呼ぶようになった
しかし、ロドリ大王は安心はしていなかった。特にこの時期のウェールズは、アングロサクソンの国(マーシア、ウェセックス)やヴァイキングなど強国が存在して、常にウェールズに進入をしようと国境付近に軍を配備して圧力をかけていたからだ
ウェールズ内でも権利を持ったロドリを妬み、隙あらば地位を狙っていたのであった
ロドリは、偉大な権力者のオーラを身にまといながら立ち上がり、意を決したような表情で、力強い言葉はあたりに鳴り響いた
息子たちよ。ワシは国を3分割し、今からお前たちにウェールズを継がせることにした。
アナラウド。長男のお前には、グウィネズ(Gwynedd)を与えよう
次男のカデルには西のデハイバース(Deheubarth)を与えよう
メルヴァンよ、末っ子のお前には中央のポウィス(Powys)を与えよう
偉大なロドリ大王のこの決定に、誰も異論を唱える者はいなかった。息子たち3人は、初めて領土を持てる喜びと、心してウェールズを守って行かねばならない責任を感じ、気が引き締まる思いであった。
ロドリは再び向き直り、アナラウドの方へ歩みよった。その表情には、一国の統治者としての厳しさもあったが、ようやく肩の荷が下りる、と言う安堵感も伺えた。
アナラウド、お前は長男だ。三兄弟の頭として、ウェールズを取りまとめてくれ。カデルとメルヴァンは兄を助け、ウェールズを強くしてくれ
おやじ、任せてくれよ。きっと、ウェールズをおやじの代よりも繁栄させ、より勢力を広げるよ
これは頼もしい。よいか、忘れるでないぞ。兄弟力を合わせ、ウェールズの結束を図ってくれ
通常のウェールズは、統治者がなくなると領土を息子たちに分配しますが、ロドリ大王は、争いが起きぬよう生きているうちに継承してウェールズの強化を図ろうとした、パイオニア的な統治者であった
次男のカデルは、ふうっと、息を吐いた。温厚で寛大な父がいるうちはまだ良いけれど、個性の強い兄弟の関係には不安を感じていたのである。
アナラウド兄貴は、強引なところがあるし、言い出したら聞かない厄介な性格だ。対照的にメルヴァンの奴は、神経質で周りばかり気にしすぎて、オドオドしてばかりだ
弟はともかく、兄が厄介だ。早とちりして、面倒な行動に出なきゃよいが。まあ、いまから心配していても仕方がない。僕が冷静に判断して、動いて行かねばならないな
合わない性格
数日後、今度は兄弟3人だけで初めて集まり、ウェールズが外敵からどう逃れていくのか、作戦会議を開いたのだった。
血の気の多い熱血漢なアナラウドが、早速口火をきった。もう、すぐにでも動き出したい、そんな様子だ。
最近のマーシアの動きは不穏だ。マーシアを放って置くと、ろくな事はない。歴史上を見ても、我がウェールズは何時も防戦だ。後手後手に回り、結局領土を奪われていたんだぞ。まずは、国境付近をウロついている、マーシアを叩くのが、先決だろう。すぐに攻め入るぞ
勢い余ったアナラウドは身を乗り出し、机をダン!と叩いた。しかし、カデルは腕を組んだまま、じっと聴いていた。静かにやや早口で、アナラウドにクギをさしたのだ。
アナラウド、いま軍を引き連れマーシアを攻めるのは、得策じゃない。今は、攻撃する時ではないよ。ぐるりと周りの情勢を見ろよ
何を言うかカデル、生意気言うな。今、奴らをほうむらないと、更に攻撃してくるぞ。今、やるしかない、それが分からぬのか、貴様は。
アナラウドは、真っ赤になり、カデルに詰め寄った。
カデル、お前オレにケンカを売る気か?
カデルは静かに答えた。
冷静になれよ、アナラウド。何も攻撃するな、とは言ってはいない。今、マーシアは我らを罠にかけようとしているんだ。マーシアが我が軍をおびき出し、マーシアを操る大国ウェセックスが、待ち構えているんだ。今動くと、奴らの思うツボだ
うぬぬぬ
今にもカデルを締め上げようとしていたアナラウドの腕の力が抜けた。
ちえっ!
カデルは地に突き飛ばされた
何をする、兄貴!
兄さんたち、よしなよ。そんなことで争っていてはダメだよ。もっと父さんの気持ちを考えないと。僕たちはもっと協力をしないといけないよ。
メルヴァン、何もできないくせに、お前は黙ってろ!ポウィスの広い土地をもらえるだけ有難いと思え!
まあまあ、メルヴァンの言う通りだアナラウド。兄弟がこんな調子じゃ、隠居した父も気が休まらないだろう。アナラウドも、僕の考えに一理あると思うだろう。だから、僕を突き飛ばしたんだろう
くそっ、言わせておけば、いい気になりやがって。勝手にしろ!
アナラウドは、ドスドスと足音を立てて、部屋を去っていった
おおきな危機
ウェールズのラズラン城で隠居生活を始めたロドリは、悠々自適にのんびりと暮らせると思っていたが、そうは行かなかった。
ウェールズの統治を任せた3人の息子たちの良いうわさはほとんど聞かず、仲が悪そうだと言う声がロドリに伝わってくるばかりであった。
あの3人の噂を聞いていると、落ち着く暇もない。このままではウェールズ自体も乱れてくる。わがウェールズ王室の守り神に相談せねばなるまい。
アングルシー島のアベルファラウ教会に行き、三兄弟が力を合わせ、ウェールズの平和が続くよう、お祈りをして来よう。
ロドリは少数の部下と護衛を引き連れてルズラン城を発った。山岳地帯が多いウェールズ北部にあって、僅かな平野に建てられたお城であった。
目立たぬように、スノードニア山地を東から西に抜けて、アングルシー島に達するルートを取るのが通例であった。
ロドリは年老いていたので、海岸に沿って平坦なコースを通り、アングルシー島に向かうことにした。
ほぉ、これは美しい
1日に何度も天候が変化するウェールズではあるが、急に雲が消え去り真っ青な空が広がることもある。 晴れた時のコンウィー付近から眺める大西洋はとても美しいのだ。
ウェールズの統治者だった頃は、いつも敵の襲撃がないだろうか、監視の目でしか海を見ることはなかった。海を美しいと思う感性すら失われていたし、いつも陰に隠れながら山中を移動していた。隠居の身も良いものだ
ロドリは、心も足取りも軽やかになった。
三兄弟の息子たちが、仲良くウェールズを守ってくれれば、もう言うことはない。いつロドリの身に何か起きたとしても、ロドリは安心して受け入れる事ができよう。
おやっ、あれはなんだ?
突然、美しいと思う感性が遠のき、戦場を駆け巡った頃の目に戻った。見えるか見えないかの微妙な気配を、はるか沖合に察知したのであった
ロドリ様、あれはヴァイキングの舟ではないですか?
よく目を凝らしてみると、細長い形のものが、いくつも折り重なり、少しずつ大きくなっているように見える
ヴァイキングだ、奴らが攻めてきただと!
ロドリ達は、先を急いだ。こんな少人数の無防備な姿で、ヴァイキングに攻撃を受けては、かつては残虐なヴァイキングに恐れられたロドリとは言え、ひとたまりも無い。
頭領を討ち取られ、長年にわたってロドリに封じ込められていたヴァイキング達が、ロドリが無防備に海岸沿いを歩いているのを発見したのだろう。
ヴァイキング達は高速で舟を操り、襲撃をしてくるので、海岸にいては危険だ。
海岸にいては、見つかってしまう。スノードニア山地に向かって、身を潜めよう。
ロドリらウェールズの戦士たちは、山の中の戦いを得意としていた。地形の高低、窪み、木々や茂みを利用して、身をくらますのだ。敵の動きを監視しながら、急襲したり逃げたりするのだ。
スノードニア山地の素晴らしい自然には目めもくれず、ロドリ達は森の中に隠れ入った。スノードニア山地は、最高峰でも1100m足らずではあるが、山全体が岩石でできており、とても険しい。地形をよく知る者でないと、横断は困難であった。
ここまでは、ヴァイキングの奴らも追ってこないだろう。このまま、スノードニア山地を通って行くルートに変更しよう。
ロドリ達は沢を見つけ、しばしの間、休息を取っていた。
うぐっ!
突然、部下の1人がうめき声をあげて、ドサっと倒れ落ちた。
おいっ、どうした。
こ、こいつ、矢が刺さってやがる
敵が、近くにいるぞ、隠れろ
まさか、ヴァイキング達に後をつけられていたのだろうか。
いや、ちがう。あの、矢じりはヴァイキングの物ではない。
ロドリ達が茂みに隠れようとした時、大勢の兵士たちにぐるりと取り囲まれた、
うぐぐ、万事休すだ。奴らはいったい何者なんだ。
ロドリさんはどこ?ああ、あなたね
赤毛にピアスをした派手な男が、ロドリ達の前に出てきた
ヴァイキングじゃない。お前たちはマーシア軍!
ロドリは思わず叫んだ 。マーシアのエセルレッドか!
赤毛をかき上げながらエセルレッドは、ロドリに近づいて来た。戦場には似つかわしくない、化粧臭が辺りに漂った
ウェールズと国境を接する、アングロサクソン族の国マーシア。エセルレッドはマーシア軍を束ねる司令官だ。何世紀にもわたって、ウェールズはマーシアと国境の領土をめぐり、攻防を繰り返していた。
ロドリ大王さんに、覚えていただけたなんて、光栄だわ。あなたも大変ね、こんな山の中をこそこそ、移動するなんて。
お前たちこそ、どうやってここに侵入して来たんだ。ヴァイキングの襲来と思ったが、まさかお前たちか
ふふふっ
エセルレッドは、イタズラ好きの少年の様な笑い方をした
せっかくだから、冥土の土産に教えてあげるわ。
つづく
ありがとうございました!
※参考)時代背景について
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