イギリス・ウェールズの歴史ーカムログ

ウェールズ語ではウェールズの事をカムリ(仲間)と言います。ウェールズの歴史、イギリスの歴史、アーサー王、イギリスの歴史に関連する内容を中心に記事を書いています。

ウェールズの国旗になぜレッドドラゴンが使われているのか?

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1959年から使用されているウェールズの国旗には、 なぜ赤い竜(レッドドラゴン)が描かれているのでしょうか?


その理由には、伝説と歴史的な背景と深いかかわりがありました。

「ほかの国々と異なり、 ウェールズでは何世紀も経てレッドドラゴンは良い意味で用いられ るようになり、 ヒーローはドラゴンのようだと称えられるようになった」

 

※詳しく知りたい人は次の記事

イギリス国旗にないウェールズ国旗 レッドドラゴンの深い歴史

 

※流れと概要を知りたい人は読み進めてください

 

 

ドラゴンの本来の意味

 

キリスト教では、ドラゴンは次の意味があります。( ウェールズはキリスト教の圏内です)

 

・ドラゴンは「悪」の象徴とされ、悪魔と同一視されたり、 邪悪な生きもの
・七つの大罪の一つである憤怒を象徴する動物で、 ドラゴン退治は悪の力との戦いを象徴するもの
・ドラゴンは自然の力を象徴しており、ドラゴンとの闘いは、 人間が自然と格闘して土地を開墾することを意味する

 

つまり、悪魔を意味する蛇に、 霊的存在を意味する翼が加わることで、 天使と相対する悪魔の象徴と考えられています。

ウェールズの古い伝説においても、 やはりドラゴンは悪の扱いです。

蛇が人間の母乳を飲むと翼が生えてグイベルという空飛ぶ怪蛇( ドラゴン)になり、通り道を横切る人々を襲ったそうです。


なぜ、悪を国旗に使うようになったのでしょうか?
ウェールズでは、数々の歴史的な出来事を経て、ドラゴンは「 悪魔」の意味ではなく、「英雄」の意味に変化してきたようです。

 

ドラゴンの起源

 

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初めてイギリスでドラゴンを使用したのは、 ウェールズの人々ではなく、ローマ軍でした。

 

古代イギリスはブリタニアと呼ばれ、 1世紀から5世紀初めまでブリタニアはローマ帝国の支配下にあり ました。ブリタニアの各地にはローマ軍が駐在し、 ブリタニアの支配及び外敵侵略を防いでいました。

 

当時のローマ軍はトカゲの軍旗を使用することがあり、 この軍旗はドラコ(draco)と呼ばれていました。

ドラコは、 2~4世紀にローマ軍人(サルマチアン人たち) によってブリタニアにもたらされたと言われています。

 

そして、 ブリタニアでも戦争時にこのトカゲが描かれたドラコが広く使われ るようになったのです。

 

邪悪なトカゲ(ドラゴン)が描かれたドラコを多数掲げ、 敵を威嚇(いかく)したり、 魔除けが狙いだったのかもしれません。

このドラコがレッドドラゴンの由来と言われています。 


ドラゴンの軍旗を初めて使ったウェールズ王

ドラゴンとの関連が見られる初めてのウェールズ王は、キネダ( Cunedda)と呼ばれる人物です。

 

キネダは、5世紀の前半に活躍した人物で、 現在のスコットランドのエジンバラ付近の首長でした。その後、 北ウェールズに移住し国を興しました。
このキネダがウェールズ王室の開祖と言われています。

 

キネダが活躍した時代は、 ドラコを掲げたローマ軍がブリタニアに駐在しており、 キネダもドラコを取り入れたのではないかと考えられます。

 

キネダに関して、次のような記述も見られます。
「キネダが馬に乗るときは900人の従者が馬と共に彼に従い、 キネダが戦争に行くときには赤い黄金のドラゴンが彼の上に掲げら れた」

 

 ※キネダに関する記事

僕らの生き方に活かせるウェールズの創始者の秘訣

 

 

レッドドラゴン伝説の始まり(アーサー王伝説)

 

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ウェールズで最も有名な英雄と言えば、アーサー王です。 アーサー王の伝説の中にもドラゴンの伝説があります。

 

アーサー王の父はウーサー・ペンドラゴン(Uther Pendragon)と呼ばれていました。
ペンドラゴンのペンはウェールズ語で頭を意味し、 ウーサーは頭にドラゴンをかぶっていたのではと想像できます。

 

アーサー王の時代である5世紀中頃になると、 ローマ軍がブリタニアから去り、 ヴォーティガンと呼ばれる首長がブリタニアを統治していました。

ヴォーティガンは大陸から侵略してくるアングロサクソン人たちに 悩まされていました。


ヴォーティガンが戦いのために要塞を建設しようとしますが、 要塞がすぐ崩れてしまうため、 アーサー王伝説の中で有名な魔法使いのマーリンに命じて調べさて たところ、 地下で赤い竜と白い竜が戦っていることを見つけました。

 

この赤い竜(レッドドラゴン)はブリタニア(ウェールズ) を差し、白い竜(ホワイトドラゴン) はアングロサクソン人を指していると書かれています。

※9世紀にネンニウスによって書かれた歴史書ブリトン人の歴史( Historia Brittonum)による

 

※ヴォーティガンに関する記事(赤い竜と白い竜の話)

映画キング・アーサー、悪王のヴォーティガンは何者だ、実在人物か?

 

 

カズオ・イシグロ著の「忘れられた巨人」では、 アーサー王が亡くなった後のブリタニアを舞台に、 レッドドラゴンが描かれています。

忘れられた巨人 (ハヤカワepi文庫)

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レッドドラゴンを定着させた人物

 

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カドワラドルのレッドドラゴン
 

5世紀~10世紀にかけて、軍旗につかわれるドラゴンは、 トカゲではなく翼をもつ四本足の動物として描かれるようになりま した。

 

そんな中、ウェールズ北部一帯を統治していたカドワラドル王( 655~682年の在位) が軍旗にレッドドラゴンを使用したという伝説があります。

 

カドワラドル王は、 ウェールズ王室の開祖と言われているキネダの子孫であり、 当時すでにアーサー王伝説は人々に知られており、 カドワラドルもマーリンの予言を信じていた、と言われています。

 

このカドワラドルが軍旗に使用したレッドドラゴンこそが、 ウェールズの国旗に描かれているレッドドラゴンとされています。

 

 ※カドワラドルに関する参考

アーサー王伝説に影響され「伝説の人物」となった偉人たち

 

 

レッドドラゴンが英雄へと変わった出来事

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時代は飛び、15世紀に移ります。
1283年にイングランドに敗北してから、 ウェールズはイングランドの支配下にありました。

 

1400年にイングランドの圧政に苦しむウェールズは、 ウェールズ王室の血をひくオウァイン・ グリンドゥールが反乱を起こしました。

 

英雄オウァインは軍旗にレッドドラゴンを使い、 ウェールズ中の人々を団結させ、イングランドと戦いました。

 

このオウァイン・ グリンドゥールの乱は1415年までに鎮圧され、 独立の夢はかないませんでしたが、 ウェールズの人々の心に深く刻み込まれました。
オウァイン・ グリンドゥールは今でもウェールズの英雄として称えられています 。

 

このように、ウェールズの人々にとって(レッド) ドラゴンは邪悪なものから、英雄の象徴へと変わっていきました。

※オウァインに関する記事

最も心に残る偉大なイギリスの英雄とは?

 

レッドドラゴンの地位が上がった戦い

 

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さらにレッドドラゴンの地位を更に高めていく出来事が起こりまし た。

1485年に起こった薔薇戦争の最後となるボースワース野の戦い で、ランカスター家のヘンリー・ テューダーも軍旗にレッドドラゴンを用いました。

 

ヘンリーはヨーク家のリチャード3世を破り、 イングランド王ヘンリー7世となりました。

 

 

ヘンリー・テューダーはなぜレッドドラゴンを用いたのか? 理由と狙いがありました。

ヘンリー7世の母方はイングランド王室の血筋ではありますが、 父系はウェールズ王室の血筋(テューダー家)を引いていました。


ヘンリー7世は薔薇戦争で勝利するために、 ウェールズの人々の協力を得ようと考えました。

 

・自分はウェールズ王室の子孫であることを示すために、 祖先のカドワラドルが使用したレッドドラゴンを軍旗とした
・テューダー家のカラーである、緑色と白色も軍旗に取り入れた
・自分はアーサー王の生まれ変わりで、 ウェールズを救う英雄と振れ回った

 

こうして、レッドドラゴンの軍旗を掲げるヘンリーのもとに、 アーサー王の復活を信じたウェールズの人々は終結し、 リチャード3世を倒してヘンリー7世はイングランド王となったの でした。

 

それまで、 イングランドの圧政に苦しんでいたウェールズの人々でしたが、 ヘンリー7世の時代には政治でも重用されました。

 

 

※ヘンリー7世に関する記事(ヘンリー7世の孫がエリザベス1世です)

ヘンリー7世がアーサー王を利用して薔薇戦争を制した方法とは?

 


このような歴史的な背景があり、ウェールズの国旗には、赤い竜( レッドドラゴン)が描かれています。


「ほかの国々と異なり、 ウェールズでは何世紀も経てレッドドラゴンは良い意味で用いられ るようになり、 ヒーローはドラゴンのようだと称えられるようになった」

 

参考記事

イギリス国旗にないウェールズ国旗 レッドドラゴンの深い歴史 

 

www.rekishiwales.com

 

 

 

 

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