「やつを追え!」
「剣を奪え、逃がすな!」

ヴォーティガンとは何者?

※日本語の予告編

「映画キング・アーサー。アーサー王は、黒い悪王ヴォーティガンに両親を殺され王座を奪われた。アーサー王は復讐し、王座を奪い返す」
「一言でいうと、こんなストーリーだな」
※ヴォーティガン(Vortigern)、ヴォルティゲルンとも読めます

「そう、そうの悪役のヴォーティガン。あれは嫌味なやつですね」

「ストーリーは作り話だけど、ヴォーティガンは実在人物だよ」

「実在人物ですか? じゃあ、いつの時代、何をやった人物なんですか?」

「伝説が多く含まれて、事実が何かわからないけど、ヴォーティガンは5世紀中ごろに活躍した実在人物だ」

「当時はまだイギリスにイングランドができる前で、先住民のケルト系のブリトン人が住んでいた時代でした。ヴォーティガンはそのケルト系ブリトン人の首長で、ウェールズ付近にあったPegansesと呼ばれていた国を治めていました。そのころの地図です」


「5世紀の中頃はローマ帝国の支配が終了し、北からピクト族(スコットランドの先祖)、西からスコット族(アイルランドの先祖)などの外敵がブリタニアに攻撃をしていた時代なんだ。ヴォーティガンはその外敵から国を守ろうと尽力をつくした人物なんだよ」

「あれ、悪役じゃないですね」

「ヴォーティガンは、ローマ帝国に援軍を要請したり、ブリタニア北部に住むキネダという首長に協力を頼んで外敵と戦ったり、海外からも傭兵を雇ったり、そりゃもう疾走したわけですよ」

「へえ。というか、ヴォーティガンは正義の味方っぽいじゃないですか。それなのに映画では悪役になってますよ。どういうことですか?」
悪役ヴォーティガン
女性好きで起こした事件


「ふふふ、今までのはヴォーティガンの建前。ヴォーティガンの本音は、イギリス史上に残る評判の悪い王なんだよ!」

「やっぱりそうか。どんな悪事をはたいたんですか?」

「弱体化したブリタニアを立て直して敵を追い払わないといけない。そのためには軍力も必要だ。ヴォーティガンは当時の王コンスタンス2世を殺害し、ブリタニア王の座を奪ったんだ」

「映画の中では、アーサー王は父親を殺されたんですよね。ということは。コンスタンス2世はアーサー王の父親ですか?」

「いいや、違うよ。歴史書によるとアーサー王の父はウーゼル・ペンドラゴンで、コンスタンス2世はウーゼルの兄、つまりアーサー王の叔父なんだよ」
「コンスタンス2世には、アンブロシウス・アウレリアヌスと呼ばれる弟がもう一人いたんだ。このアンブロシウスが、兄の復讐のためにヴォーティガンと戦ったんだよ。だから、映画キングアーサーはアンブロシウスがモデルかもしれないな」

「それで、実際のアンブロシウスはヴォーティガンに復讐できたのですか?」

「アンブロシウスはヴォーティガンに復讐するため、フランスに逃れてチャンスを待っていたんだ。その間、ヴォーティガンは次々と、世の中をひっくり返すような事を続けていたんだ」

「ヴォーティガンはローマ帝国に援軍を頼んだけれど、ダメ印を押されて助けてもらえなかったんだ。というのは、ヴォーティガンは無節操に女グセが悪かったんだ。キリスト教では御法度の近親相姦を親族に強要しているところをローマ帝国の偵察隊に見つかって、異端の烙印を押されたんだよ」

「途方に暮れたヴォーティガンはある人物に注目したんだ。傭兵をやっていた、ドイツ北部のジュート人であるヘンゲストとホルサ兄弟なんだ」
「腕の立つ兄弟はヴォーティガンのもとにやって来て、きちんと仕事を果たし敵を追い払ったんだ」


「あっさり解決しちゃいましたね。ここからどう悪事につながるんですか?」

「このヘンゲストとホルサ兄弟はくせ者で、ヴォーティガンは悪事を働いたというより兄弟にハメられた、と言ったほうが適切かもしれないな」
「その場面を話そう」
<このまま国に帰ってしまうのも惜しいな。自分たちの北ドイツより気候の良いブリタニアに残ったほうが暮らしやすい>
<ヴォーティガンをもっとしゃぶり倒してやろう。あの奴、女にめっぽう弱いぜ・・・ふふふ、ひと暴れしてやろう>
ヘンギストには美しい娘ロワナがいました。宴会の席で、ヘンギストとホルサの兄弟はロワナをヴォーティガンに紹介しました。
<何と美しい娘だ、是非我がものに・・・>
一目でロワナに恋をしてしまったヴォーティガンは、まんまとヘンゲストとホルサ兄弟の思うツボにハマってしまいました。
美女のお酌で酔って油断したところに、兄弟の武装集団に取り囲まれてしまいました。
<命だけはお助けを!>
こうして、ヘンゲストとホルサ兄弟はブリタニアの東側のケントを乗っ取ることに成功しました。

※この出来事がもとで、ヘンゲストとホルサ兄弟はドイツからアングル人やサクソン人も呼び寄せ、領土を拡大して行ったんです。
その後、数世紀に及んでアングロ・サクソン人(ジュート人とアングル人とサクソン人の総称)は侵略を続け、8世紀頃までにヴォーティガンを含むケルト系ブリトン人を北のスコットランドや西のウェールズに追いやり、イングランドを作ったのです。こんな歴史的な背景があるため、特にケルト系の人々には評判がよくないのですよ。

「そこでだ! フランスに逃れたアンブロシウスが復讐に乗り出したんだ」
「ヴォーティガンはアンブロシウスと再三にわたって戦うんだが、王の中の王と呼ばれたアンブロシウスには到底かなわなかったんだ」
「命だけはお助けを、ということで領土と王座をアンブロシウスに差し出したんだ。しかし、権力の座をあきらめ切れず、雪辱をはらすために要塞の建設をしていたところ、雷に打たれて亡くなったそうだ」※
魔法使いマーリンの予言


「ヴォーティガンに予言をした人物がいたんだ。アーサー王物語でも有名な魔法使いのマーリンだ。マーリンは、「王の座を奪うことはよしなさい。奪わなければ、王座はおのずと手に入るだろう」、とヴォーティガンに忠告をしたんだよ」

「しかし、ヴォーティガンは忠告を聞かず、コンスタンス2世を殺して王座を奪い、その結果としてアンブロシウスの復讐を受けてしまった、ということですね」

※要塞は作っても作っても翌日になると崩れてしまったそうです。マーリンの助言により調べてみると、要塞の地下で赤竜と白竜が戦っていました。竜を取り除くと要塞は建築できた、という伝説があります。
赤竜:ブリタニア、白竜:アングロサクソン で白竜が勝っており、アングロサクソンが将来ブリタニアを乗っ取ることを暗示していたそうですよ。
最後に


悪役ヴォーティガンの歴史を知って、より映画キング・アーサーを楽しんでもらえれば嬉しいです。
※ヴォーティガンに関する記事
この男がいなかったらイギリスは無かったかも・・・暗黒のウェールズ王の隠れた事実!!
※アンブロシウスに関する記事
※ヘンギストとホルサ兄弟の記事
最後まで読んでくださり有難うございました。



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