(2018.7.13更新)
「前回は歴史書にみるアーサー王伝説の起源について、またアーサー王の先祖についてお話いたしました。アーサー王は実在したかどうかという議論はありますが、その人物の歴史背景を知ると新たな面が見えてきてとても興味深いです」
「アーサー王伝説、アーサー王物語にはさまざまな説があり、このため多くのアーサー王が存在します。今回は、それらアーサー王のモデルとなった人物についてご紹介し、その人物を並べてアーサー王物語の流れを構築してみました」
アーサー王のモデル候補者について
「アーサー王物語で描かれてるズバリのアーサー王は、実在しない創作と言われているけれど、アーサー王らしき人物は実在したと考える、と言ってましたよね。アーサー王には多くのモデル人物がいるのですか?」
「アーサー王のモデルとして10人以上と、数多くの歴史上人物があげられているんだよ。その中で、アーサー王のモデルとして可能性が高いのでは? と思われる人物を選んでみたよ。主なモデル候補としては、以下の人々が挙げられるよ」
・ルキウス・アルトリウス・カストゥス
・マグヌス・マキシムス
・コンスタンティンⅢ世
・アンブロシウス・アウレリアヌス
・リオタムス
・オウァイン・ダントグウィン
「これらの人物がなぜアーサー王のモデル候補になったのか、話していこう! 僕はこのモデル候補の部分部分を集めて、アーサー王物語が出来上がったのではないか?と考えているんだ!」
「面白そうですね。なんだか、アーサー王が歴史上人物の良いところを集めてできたスーパーマンみたいな感じですね」
※以下の各モデル紹介に張り付けてある記事は、各モデル人物にインタビューしたときの場面を想像して描いたものになっています。
シリーズ記事:アーサー王のモデルを追え カテゴリーの記事一覧
アーサー王の候補者:ルキウス・アルトリウス・カストゥス
3世紀のブリタニアに、ルキウス・アルトリウス・カストゥス(Lucius Artorius Castus)というローマ軍人がいたんだ。ローマから派遣されて、現在のスコットランドにあるハドリアヌス城壁でピクト人と戦っていたんだ。
その時の活躍の様子が、アーサー王物語に取り入れられた、という説があるんだよ。ハドリアヌス城壁で戦士として活躍したルキウスをモデルに、作られた映画が「キング・アーサー」です。
アーサー王の候補者:アンブロシウス・アウレリアヌス
アンブロシウス・アウレリアヌス(Ambrosius Aurelianus)は5世紀後半ごろに活躍した、ブリタニアの王だ。アングロ・サクソン族との戦いに明け暮れ、ブリタニアを守った「王の中の王」と呼ばれているんだ。その時の勇者ぶりがアーサー王物語の中に取り入れられたんじゃないか、と思うんだ。
歴史書「ブリタニア列王史」ではアーサー王の父ウーサー・ペンドラゴンの兄で、アーサー王の叔父になってる。魔法使いのマーリンに命じて、ストーンヘンジを造ったという伝説もあるよ。
アーサー王の候補者:マグヌス・マキシムス
マグヌス・マキシムス(Magnus Maximus)は4世紀後半に活躍した人物だ。最初はローマ軍人であったが、ローマ軍の中でどんどん出世し、ブリタニア王になり、さらには西ローマ皇帝にまで大出世した人物。その活躍と大躍進ぶりが、アーサー王物語のモデルになったのじゃないかと思うよ。
マグヌスには恋の話から戦いの話まで、数多くの伝説が残されており、ウェールズには「マクセンの夢」として語り継がれているんだ。
アーサー王の候補者:オウァイン・ダントグウィン
6世紀の初めにウェールズで活躍した一戦士が、オウァイン・ダントグウィン(Owain Ddantgwyn)だ。ダントグゥインは白い歯という意味で、これはオウァインが持っている剣を意味していると言われているんだ。この剣がエクスカリバーではないだろうか、という説もあるんだ。
オウァインは甥のマエルグウィンに、カムランの谷の戦いに敗れてウェールズ王座を奪われるんだ。アーサー王とモルドレッドの最後の戦いもカムランと同じ名前であるし、マエルグウィンもモルドレッドのモデルじゃないか、という説もあるんだ。
※モルドレッドのモデルと考えられるマエルグウィンの記事
悪魔はやはり悪魔であった ~最も嫌われたウェールズ王
アーサー王の候補者:コンスタンティン三世
コンスタンティン3世(西ローマ皇帝としてはConstantineⅢ、ブリタニア王としてはコンスタンティン2世)は、4世紀の初めに活躍した人物で、最初はフランスに住んでいたが、兄の後を引き継いでブリタニア王になったんだ。その後、西ローマ帝国に攻め入り西ローマ皇帝の王位を奪ったんだ。
アーサー王物語によると、コンスタンティン三世はアーサー王の祖父になっているんだよ。他のモデルも同じだけど、ブリタニア王になり、ローマ皇帝を破った点が、アーサー王物語に反映されたんじゃないか、と思うんだ。
アーサー王の候補者:リオタムス
リオタムス(Riothamus)は、5世紀に活躍した人物で、フランスのブリタニーに住んでいたが、ブリタニアに移り住みブリタニア王となったんだ。先に説明した、アンブロシウスと同一人物じゃないか? という説もあるよ。
ローマ帝国の要請で軍を率いフランスに援軍に駆けつけたが敗れ、アバロンで消息を絶ったと言われているんだ。アーサー王がモルドレッドの戦いで深手を負い、アヴァロンで消息を絶ったと言われているアーサー王物語とそっくりだな。
この点がアーサー王物語のモデルになったんじゃないか、と言われてるんだ。
アーサー王の候補者:アーサー王に関する最古の歴史書
アーサー王らしき人物が初めて登場するのは、6世紀に書かれた「ブリトン人の没落」であり、ベイドン山の戦いを初め12の戦いで連戦連勝を重ねた戦士の記述があるんだ。
この名前すら分からない戦士が、アーサー王の始まりなんじゃないか、と言われてるんだよ。
モデル人物を使って、アーサー王を構築してみた
生誕から没落までのアーサー王物語の各場面を、それぞれのモデルを当てはめながら、アーサー王物語を構築してみましょう。
アーサー王の誕生について
直接のアーサー王のモデルはいないけど、アーサー王の誕生についてはモデルがありそうだな。
アーサー王の父ウーゼル・ペンドラゴン王はティンタジェル公の妻イグレーヌに一目惚れをし、ティンタジェル公を殺害してイグレーヌを奪い結婚、そしてアーサーが産まれたとされているんだよ。
これも、フランス文学の『トリスタンとイズー物語』がモデルとなり、作者が創作したのではと考えられます。アーサー王物語にも勇者トリスタンが円卓の騎士として登場していますしね。
※トリスタンとイズー物語は、スコットランドの伝説がウェールズやコーンウォール地方に伝わり詩として書かれた物がフランス文学によって物語化されました。
アーサー王の即位について
岩上に突き刺さった剣が現れアーサーだけが抜くことができ、アーサーが王となった場面は誰のモデル?
それも、今回上げたモデル人物にはいないんだ。その場面については、12世紀イタリアの聖ガルガノが信仰のために岩に突き刺した剣の言い伝えがあるんだ。アーサー王物語はフランスで大きく進化しましたので、イタリアから聖ガルガノの話がフランスに伝わりアーサー王物語に取り込んだのかもしれないな。
聖ガルガノの剣は岩に突き刺さった状態でサンガルガノ大聖堂の近くに現存しているんだ。(アーサー王物語では教会はカンタベリ大聖堂になっています)
アーサー王の伝説の剣は実在するの? 岩に刺さったサン・ガルガノ伝説の剣
戦争の英雄、アーサー王
アーサー王といえば、魔法使いマーリンの力を借りて聖剣エクスカリバーを手に入れ、ブリタニア全土を平定したんですよね。
そうだな。アーサー王がブリタニアを平定する部分は、歴史書『ブリトン人の没落』に書かれているアングロサクソン族との516年頃に起こったベイドン山を中心とした戦いに基づいていると考えられます。
似ているのが、アングロサクソン軍と幾度となく戦い勝利したアンブロシウス・アウレリアヌス。アンブロシウスがこの場面の有力なモデル候補と思うな。
アーサー王伝説によると、アンブロシウスは魔法使いマーリンに命じて、巨石をヒルベニア(アイルランド)から取り寄せストーンヘンジを作ったと言い伝えがあります。この伝説は長い間信じられていたそうですよ。
何トン、何十トンもの巨石、とても人間の手で動かしたとは当時の人々では考え難いですよね。伝説の魔法の力でストーンヘンジを作ったと、人々の心の支えになるアーサー王伝説に書かれていたら信じますよね。
アーサー王は大軍を率いて北欧諸国、フランスを征服
アーサー王の覇権を認めないローマ皇帝はフランス奪回を狙ったため、アーサー王はローマ帝国征服に乗り出しアーサー王はローマ帝国軍を全滅させる話がありましたね。これは誰なんでしょうか?
残念ながら、アーサー王が生きたと考えらえる6世紀にブリタニアがローマ帝国に乗り出して戦った歴史的な記述は無いですね。それに、登場するルキウスというローマ皇帝は存在しないんだ。
実際の歴史でブリタニア王がヨーロッパに乗り込んだ例を見てみよう。4世紀後半のマグヌス・マキシムスと5世紀中頃のコンスタンティンⅢ世が、西ローマ皇帝を攻撃して破り西ローマ皇帝になったり、5世紀リオタムスがローマ帝国軍の要請で援軍としてかけつけ西ゴート族と戦ったりしました例があるな。
ということを考えると、マグヌスとコンスタンティンⅢ世がブリタニア王から西ローマ皇帝まで地位を上げており、アーサー王のモデルとして取り込まれた可能性が高いですね。
アーサー王の最後
アーサー王の最後は、ブリタニアでモルドレッドが反乱を起こしたため、フランスにいたアーサー王は急きょブリタニアにもどり、モルドレッドと死力を尽くした戦いとなります(カムランの戦い)。
この戦いでモルドレッドは戦死し、アーサー王も致命傷を負いアヴァロンの地で息を引き取ります。この出来事のモデルはいるのですか?
そうですね。僕はリオタムスとコンスタンティン三世が近いと思っているんですよ。リオタムスの場合は、部下の司令官アルヴァンドゥスに裏切りにあって敵に敗れ、フランスのアヴァロンに逃れ消息をたったんですよ。
アヴァロンという地名まで似てますね! 偶然の一致とは思えません。
コンスタンティンⅢ世の場合も部下ゲロンティウスに背かれ、さらに救護に来たはずのホノリウス皇帝軍に捕えられ処刑されたんですね。
この人物を忘れていた!
ダークホース的な人物を忘れていました。ウェールズに住み、剣を連想させ、戦いにあけくれて最後にカムランで敗れたオウァイン・ダントグウィン。
歴史書で出てくる戦士は、先ほどはアンブロシウス? と言いましたが、僕は白い剣を持ち戦場を駆け巡ったオウァインも候補じゃないかと思うんですね。オウァインに英雄的なアンブロシウスの要素を付けたんじゃないかと思うんですよ。
アーサー王像をまとめるとこんな感じになります。
おお、アーサー王!
最後に
今回シリーズでお話してきた内容は、一つの例として楽しんで頂ければと思います。アーサー王にはこれまでお話ししてきた以外にも多くの候補者や、伝説があります。今回の話も含め、どれが真実でどれが偽りか?というよりもそんな面白い話があったのか?という目線で楽しんで頂ければと思います。アーサー王物語は常に進化しており、あなた自身のアーサー王を想像力豊かに作ってもらえたら幸いです。
アーサー王に関するシリーズ記事
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最後まで読んでくださり有難うございました。
コメント
アーサー王物語には、ほかの物語の影響もあったのですね。物語はつながっているんですね。
トリスタンとイズーの物語のトリスタンはアーサーの仲間なんですね。アベンジャーズみたいですね。^^
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